モーターの知識
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2025-07-11
インホイールモータとは?仕組みと動作原理の完全ガイド
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インホイールモータとは?
インホイールモータとは、電動モータを車輪のハブ(軸受部)に直接組み込んだ技術で、「インホイールモータ」「ホイールモータ」「ホイールドライブ」などとも呼ばれます。この巧妙な設計により、駆動・動力伝達・制動といった機構がすべて車輪内部に統合されており、従来の複雑でかさばるトランスミッションシステムが不要になります。これにより車両のメカニカル構造が大幅に簡素化され、効率が向上します。特に、コンパクトな電気自動車(EV)を設計・開発する上で、極めて重要な要素となっています。

インホイールモータの歴史と進化
インホイールモータの概念は、19世紀末にまでさかのぼります。1884年、ウェリントン・アダムス(Wellington Adams)は鉄道車両や軽機械向けに設計された初期の電動インホイールモータの特許を取得しました。その後1895年、オグデン・ボルトン(Ogden Bolton)は前輪にインホイールモータを搭載した電動自転車の特許を取得し、個人移動手段におけるインホイールモータの最初の実用化となりました。
1899年には、フェルディナント・ポルシェ(Ferdinand Porsche)がウィーンのLohner & Co.と協力し、世界初のハイブリッド電気自動車を開発。車両には4つの電池駆動インホイールモータが搭載され、ガソリンエンジンとのハイブリッド構造が特徴でした。
以降、初期の電動車ではインホイールモータの設計がたびたび試みられましたが、ばね下重量の増加や当時のバッテリー技術の限界により、自動車分野での普及には至りませんでした。
しかし時代が進むにつれて、構造のシンプルさ、高効率、低メンテナンスといった利点から、インホイールモータは電動自転車、電動キックボード、軽量モビリティ機器の主流な駆動システムとして定着しました。特に2000年代から2010年代にかけて、その採用は急速に拡大しました。
現在では、インホイールモータは個人用電動モビリティで広く利用されており、先進的な電気自動車や自動運転車両の分野でも継続的に研究・開発が進められています。
インホイールモータの仕組み:基本的な動作原理
- インホイールモータの駆動技術は、電磁誘導の基本原理に基づいています。インホイールモータは主に以下の主要コンポーネントで構成されています:ステータ(固定子)、ロータ(回転子)、永久磁石、そしてフェーズコントローラ(位相制御装置)。下図にその構造の概要を示します。

モータに電力が供給されると、フェーズコントローラ(位相制御装置)がスイッチング回路として機能し、位置センサーからの信号に基づいて、ステータ巻線に流れる電流のタイミングと順序を正確に制御します。これにより回転磁場が生成され、ロータ内に埋め込まれた永久磁石と相互作用し、ロータを回転させて車輪を駆動します。
一部のメーカー(例:FUKUTA)では、インホイールモータに「ヘアピンステータ」技術を採用しています。ヘアピンステータとは、従来の丸線ではなく、矩形の銅線をU字型に成形して巻く構造で、巻線密度を高めることで、放熱性と電力密度の向上を実現します。この設計は、限られた空間で高効率が求められる用途に最適な選択肢となっています。
インホイールモータの機能
現代のインホイールモータは、推進力の提供だけでなく、直接駆動、荷重支持、差動制御、ブレーキ機能、エネルギー回生、冷却など、複数の重要な機能を兼ね備えています。これらの機能により、インホイールモータは高効率かつ多用途な駆動システムとして広く利用されています。
直接駆動
従来の車軸や変速機に依存するパワートレインとは異なり、ほとんどのインホイールモータは電力を直接機械的な動きに変換し、直接駆動を実現します。モータの外側のロータがホイールリムに接続され、スムーズかつ即時のトルクを車輪に供給し、車両を前進させます。荷重支持
ハブはベアリングを介してサスペンションと接続されており、路面からの衝撃や車両の荷重を吸収します。同時に、ロータとステータの位置関係を正確に保ち、重量を効果的に分散しながら、モータの動作に影響を与えることなく安定性を維持します。差動制御
インホイールモータ搭載車両では、電子制御式のデファレンシャル(差動装置)により、各車輪の回転速度を独立して調整できます。前輪の操舵により旋回半径が決まり、後輪は電子的に回転数を制御することでスリップを防止し、最適なグリップを維持します。これにより、滑らかで安全なコーナリングが可能となり、従来の機械式差動装置が不要となります。ブレーキ
インホイールモータは、回生ブレーキと摩擦ブレーキの両方をサポートします。回生ブレーキでは、運動エネルギーを回収して電力に変換し、摩擦ブレーキ(ディスクブレーキなど)は緊急時や急停止時に必要な追加の制動力を提供します。エネルギー回生
回生ブレーキ作動時、インホイールモータは発電機モードに切り替わり、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、バッテリーやスーパーキャパシタに蓄えます。このプロセスにより、制動時に抵抗トルクが発生し、エネルギー効率と航続距離の向上が図られます。冷却
インホイールモータには、空冷式と水冷式の2種類の冷却方式があります。空冷式では、内蔵ファンや通気構造を用いてモータ周囲に空気を循環させます。一方、水冷式では、専用の冷却経路を通じて冷却液を循環させ、高負荷または連続運転時においても効率的な熱交換と温度管理を実現します。インホイールモータの種類:5つの主要タイプ
インホイールモータは、その内部構造や取り付け位置に基づいて、主に5つのカテゴリに分類されます。ここでは、それぞれのタイプについて解説し、ご自身のパフォーマンス要件に合ったモータを見つけるための参考にしてください。1. ブラシ付き vs. ブラシレス インホイールモータ
ブラシ付きインホイールモータは、物理的なブラシと機械式コミュテーター(整流子)を使用して、モータ巻線内の電流を切り替え、回転磁場を発生させます。構造がシンプルでコストも低いという利点がありますが、電力消費が多く、効率が低く、ブラシの摩耗により頻繁なメンテナンスが必要です。平均寿命は約5,000時間で、動作音も比較的大きい傾向があります。ブラシ付きインホイールモータは、物理的なブラシと機械式コミュテーター(整流子)を使用して、モータ巻線内の電流を切り替え、回転磁場を発生させます。構造がシンプルでコストも低いという利点がありますが、電力消費が多く、効率が低く、ブラシの摩耗により頻繁なメンテナンスが必要です。平均寿命は約5,000時間で、動作音も比較的大きい傾向があります。
2. ギア付き vs. ギアなし(ダイレクトドライブ)インホイールモータ
ギア付きインホイールモータは、内部に減速ギアを備えており、高回転のモータ出力を低回転・高トルクに変換して車輪に伝えます。この設計により、モータは最適な回転数で効率よく動作し、特に登坂性能が求められる小型EVに適しています。ただし、ギアの摩耗が発生するため定期的なメンテナンスが必要ですが、コンパクトで軽量というメリットがあります。一方、ギアなし(ダイレクトドライブ)インホイールモータは、内部にギアを持たず、モータの外殻が直接ホイールと接続されています。磁石とコイルによる直接駆動により、構造がシンプルで部品数も少なく、非常に高い耐久性とほぼメンテナンスフリーが実現されます。動作は静かでスムーズなため、大型車両や高速EVに最適です。特に持続的な高トルクが不要な環境では優れたパフォーマンスを発揮します。ただし、低速で高トルクを出すためには、モータサイズや磁石の数を増やす必要があるため、全体的に大型化する傾向があります。
3. センサー付き vs. センサーレス インホイールモータ
センサー付きインホイールモータは、ホールセンサー(Hall sensor)などの位置センサーを内蔵しており、ロータの位置をリアルタイムで検出し、正確なタイミングで電流の切り替え(コミュテーション)を行います。この機能により、滑らかな加速と安定した始動トルクが得られ、低速性能にも優れています。特に、頻繁な停止・発進が求められる都市型通勤や重量物輸送に適しています。一方、センサーレスインホイールモータは物理的な位置センサーを持たず、逆起電力(Back-EMF)からロータの位置を推定します。この方式は高速域では優れた制御が可能ですが、低速では逆起電力が弱くなるため、始動トルクが不足し、制御が不安定になる傾向があります。センサーレス設計は部品点数が少なく、製造コストも低いため、軽量なレジャー向けの電動車両に適しています。
4. クラッチ付き vs. クラッチなし インホイールモータ
クラッチ付きインホイールモータは、モータが通電していないときにクラッチによって駆動系を切り離すことで、電磁抵抗を効果的に排除します。これにより、電動アシストなしで自転車を漕ぐ際の負担が軽減されます。一部のクラッチシステムでは、ギア比を調整可能にすることで、さまざまな状況下での効率性と乗り心地を向上させています。一方、クラッチなしインホイールモータは常にモータが直接車輪に接続されているため、非通電時にも内部抵抗が存在します。設計はシンプルで耐久性に優れますが、電力を使わない走行時にはやや重く感じることがあります。
5. フロントインホイールモータ vs. リアインホイールモータ
フロントインホイールモータは、前輪の中心部に取り付けられます。この配置は、自転車全体の重量バランスを改善しやすく、モータが前方を支えることで、ライダーの体重が後方に分散されます。また、フロントハブシステムは駆動系(チェーンやギア)と機械的に独立しているため、取り付けやメンテナンスが簡単で、変速機への干渉も最小限に抑えられます。ただし、走行時に前輪の荷重が少ないため、雨天や滑りやすい路面ではトラクション性能が低下することがあります。四輪EV(電気自動車)の場合、前輪インホイールモータはトランスミッションを省略でき、中央モータやギアボックスが不要になります。これによりFWD(前輪駆動)設計が可能になり、走行安定性が高まります。ただし、加速時や高荷重時には、自転車同様にトラクションの課題が残ることがあります。
一方、リアインホイールモータは後輪に取り付けられ、「後方からの推進力」を提供するため、多くのライダーにとって自然なフィーリングとなります。特に坂道や荷物を積んだ状態では、リアモータの方が高いトラクションと推進力を発揮し、変速機との統合も容易です。ただし、重量が車体後方に集中するため、特に傾斜地や荒れた地形ではハンドリングに影響を及ぼす可能性があります。
四輪EVにおいても、リアインホイールモータはRWD(後輪駆動)やAWD(全輪駆動)構成を実現できるため、高トルクを必要とするパフォーマンス車両や多目的車両に多く採用されています。ただし、**非ばね下重量(unsprung mass)**の増加により、乗り心地に影響を与えることもあります。
インホイールモータのメリットとデメリット
インホイールモータのメリット
インホイールモータ(ホイールインモータ)は、さまざまな利点により電動車両(EV)での採用が拡大しています。以下は主なメリットです:- 軽量化: 従来の重たいトランスミッションや駆動系部品が不要となるため、車両全体の重量が大幅に軽減されます。軽量構造により、エネルギー効率の向上だけでなく、加速性能や走行ダイナミクスも改善されます。
- 空間効率の向上: モータが車輪内部に直接組み込まれるため、車体内部の貴重なスペースが解放されます。空いたスペースは、乗員の快適性向上、積載量の増加、またはバッテリー容量の拡張に活用でき、より高いパワー密度とコンパクトな設計が可能になります。
- 柔軟な車両設計: コンパクトかつモジュール式の設計により、前輪駆動(FWD)、後輪駆動(RWD)、全輪駆動(AWD)など、多様な駆動構成に対応できます。また、従来の内燃機関とのハイブリッド構成も容易です。
- 静音性とスムーズな走行: 従来のドライブトレインに比べ、可動部品が少なく、ギアレスのダイレクトドライブ方式では特に静かで滑らかな走行が可能です。騒音や振動の少ない走行体験を提供し、快適性が大きく向上します。
- 走行安定性の向上: 重量配分の均等化と重心の低下により、急カーブや突然の操舵時でも安定した走行が可能になります。
- コスト効率: 初期コストは技術やスケールによって異なるものの、機械構造が簡素化されることで製造工程が短縮され、材料コストも削減されます。ユーザーにとってはメンテナンスの必要が少なく、長期的なコスト削減に繋がります。
インホイールモータのデメリットと対策
一方で、インホイールモータにはいくつかの課題も存在します。以下に主なデメリットとその解決策を示します:-
バネ下重量の増加: モータが車輪に直接取り付けられることで、**非ばね下質量(unsprung mass)**が増加します。これにより、乗り心地やハンドリング性能、サスペンションの反応性に悪影響を及ぼす可能性があります。
解決方案:- 高度なサスペンションチューニングやアクティブダンパーを導入して、ハンドリングへの影響を最小化。
- 鉄心レス構造やLitz線コイルを用いてモータの軽量化を図る(ただし耐久性とのバランスが必要)。
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放熱性能とエネルギー消費: 加速や制動、登坂時に大量の熱が発生しますが、限られたスペース内では冷却が難しく、性能劣化や部品故障のリスクが高まります。
解決方案:- 液冷システムや改良されたヒートシンク、高効率の熱管理設計を採用。
- 低抵抗・高導電性の材料を使用して電力損失と発熱を抑制。
- ホイールをファン形状に設計することで、自然冷却性能を向上。
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環境耐性の課題: インホイールモータは路面環境に直接さらされるため、振動、衝撃、水分、塵埃、温度変化などの影響を受けやすく、摩耗や故障リスクが高まります。
解決方案:- 耐腐食素材、高強度シーリング技術、補強されたモータケースを採用。
- 定期メンテナンスやスマートセンサーによる状態監視で故障を未然に防止。
インホイールモータの主な用途
技術の進歩に伴い、インホイールモータは電動モビリティをはじめ、工業機器や医療機器分野へと応用が拡大しています。電動自転車・電動スクーター
インホイールモータはホイール内部に直接組み込まれており、複雑な駆動系を省略できるため、取り付けが簡単です。ライダーは安定した出力、ギアの無音運転、そしてメンテナンスの容易さを享受できます。高性能モデルは軽量設計と強力なパワーを兼ね備え、都市通勤やオフロード走行に適しています。
電気自動車(EV)
増加する非ばね下重量という課題はあるものの、Protean Electricや日産をはじめとする企業は、伝統的な駆動系を廃し、ホイールに直接モータを組み込むインホイールモータを積極的に開発しています。これにより構造のコンパクト化と独立した車輪制御が可能となり、効率向上と動力伝達の簡素化に貢献しています。こうした技術は、自動車産業のゼロエミッション推進に合致しています。
工業用および医療機器
インホイールモータは、コンパクトかつ静音性に優れ、精密な動きを求められる工業用機器や医療機器にも応用されています。例えば、工場や倉庫で使われる小型自動搬送車(AGV)、補助移動装置、専門的な診断機器、さらには一部のロボット手術装置などです。これにより、限られたスペースでも高精度かつ高効率な多機能運動が可能となっています。
インホイールモータの将来展望
Grand View Researchの分析によると、2022年の世界インホイールモータ市場は約122.6億ドルと評価されており、2023年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)4.8%で成長すると予測されています。これは主に、電動車両の需要増加、持続可能な交通の推進、そしてモータ技術の進歩によるものです。今後のインホイールモータ開発は、より軽量で高効率な設計の実現に注力される見込みです。先進的な複合材料や改良された磁性合金といった材料革新により、モータの重量を軽減しながらも出力を維持または向上させることが期待されています。エネルギー効率の向上は、電動車両やパーソナルモビリティの航続距離延長と性能向上にも貢献します。
さらに、インホイールモータは無人機(ドローン)、ロボット、自動運搬車、IoT機器など、多様な新たな応用分野にも拡大していくと予想されます。これらの分野では、小型で高精度な制御が可能なインホイールモータの特性が高く評価されています。
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電動モビリティと自動化技術の普及に伴い、信頼できるインホイールモータのパートナーはこれまで以上に重要となっています。富田電機は効率性、耐久性、先端設計を融合した高性能インホイールモータを提供し、多様な用途のニーズに応えています。独自のインホイールモータ技術であなたのビジョンを実現する準備はできていますか?弊社の豊富な製品ラインアップをぜひご覧いただくか、カスタマイズソリューションについてお気軽にお問い合わせください。
FAQs
インホイールモータとミッドドライブモータの違いは何ですか?
両者とも電動自転車でよく使われますが、配置場所と動力伝達方法に大きな違いがあります。インホイールモータは前輪または後輪のホイールハブに直接組み込まれており、車輪を直接駆動します。シンプルで効率的、可動部品も少ないシステムです。
ミッドドライブモータはペダルやクランクの近くに設置され、自転車のチェーンやギアを介して動力を伝えます。これにより登坂時のトルク利得や重量配分のメリットがありますが、機械構造は複雑になります。
インホイールモータは交流(AC)ですか、それとも直流(DC)ですか?
インホイールモータは交流(AC)または直流(DC)どちらでも可能ですが、現代の電動車両では制御が容易でコンパクトな無刷直流(BLDC)モータが主流です。インホイールモータは信頼性がありますか?
はい、非常に信頼性が高いです。従来の駆動系に比べて可動部品が少なく、機械的な摩耗が減るため、メンテナンスも最小限で済みます。ベアリングなどの重要部品を良好な状態に保ち、過剰な湿気や腐食から守れば、長期間の使用が可能です。密閉構造により、ほこりや破片からも保護され、多様な環境に適した耐久性を誇ります。戻る